厚生年金の保険料が2027年9月から引き上げられることが決まりました。対象となるのは、年収798万円以上の会社員で、年間の負担額が最大約11万円増加する見込みです。一方で、将来もらえる年金額も増えるとされていますが、実際にはどれほどの差が出るのでしょうか?本記事では、厚生年金保険料引き上げの背景や影響、そして今後の見通しについて詳しく解説します。
厚生年金保険料の引き上げ理由
厚生労働省は、今回の保険料引き上げの理由について、年金財政の安定化を挙げています。
現在の年金制度では、以下の3つの財源によって年金が支払われています。
- 現役世代の保険料
- 国庫負担(税金)
- 積立金の運用益
近年は、少子高齢化の影響で年金を支える現役世代の数が減少し、将来的な財源不足が懸念されています。そのため、高所得者層の負担を増やし、将来の年金受給額を維持しようという狙いがあるのです。
しかし、現在の年金財政は決して破綻寸前というわけではなく、2022年度時点では積立金が約250兆円あり、運用成績も好調です。それでも厚生労働省は、「将来の安心のために、今のうちから財源を確保する必要がある」と説明しています。
負担増の対象者と影響額
誰が対象になるのか?
今回の保険料引き上げの対象となるのは、月収65万円以上の会社員です。
現在、厚生年金の標準報酬月額(保険料を決める基準となる額)は、上限65万円と設定されています。そのため、月収65万円を超える人も、65万円分の保険料しか払っていませんでした。
しかし、2027年9月からは、上限が75万円以上に引き上げられる予定です。
実際にどれくらい負担が増えるのか?
月収73万円以上の人の場合、増加する保険料は以下のとおりです。
| 月収 | 現行の年金保険料 | 2027年9月以降の年金保険料 | 年間の増加額 |
|---|---|---|---|
| 73万円 | 約5万1,950円 | 約6万1,825円 | 約11万円 |
会社が半分を負担するため、個人の負担額は約5万5,900円、会社の負担も同じ金額となります。
将来の年金受給額は増えるのか?
「保険料を多く払うなら、その分もらえる年金も増えるのでは?」と思う方も多いでしょう。
確かに、年金の計算式に従えば、負担が増えた分だけ受給額も増えます。しかし、その増加額は意外にも小さいのです。
例えば、標準報酬月額が10万円上がった場合、年金受給額の増加は年間約6,577円です。
つまり、11万円の保険料を払っても、年金が増えるのは年間約6,500円。元を取るには約16.7年かかる計算になります。
さらに、会社負担分も含めた場合、元を取るには33.4年(99歳まで生存)が必要です。
高所得者層・企業への影響
高所得者の生活への負担増
現在、会社員が支払う社会保険料の合計は、給与の約30%にもなります。
- 厚生年金保険料(18.3%)
- 健康保険料
- 介護保険料
そこに加えて、消費税や所得税の負担もあるため、可処分所得(自由に使えるお金)はさらに減少します。
特に、子育て世帯や住宅ローンを抱える家庭では、手取り減少の影響が大きくなることが懸念されています。
企業側の負担増加
企業も社員と同額の保険料を負担するため、人件費の増加が避けられません。
特に、中小企業では「給与総額が増えれば増えるほど、負担が増す」という問題が発生し、今後の賃上げや新規雇用に慎重になる可能性もあります。
まとめ:厚生年金保険料の増額は必要か?
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 年金財政の安定化 | 高所得者の負担増 |
| 受給額がわずかに増える | 企業の人件費増加 |
| 積立金の運用規模拡大 | 元を取るのに時間がかかる |
今回の厚生年金保険料の増額は、年金財政の安定化を目的としたものですが、一方で高所得者や企業の負担が増加することは避けられません。
年金制度の維持は重要ですが、現在の社会保険料の負担はすでに重く、さらなる増税や負担増が続けば、生活や経済活動への影響も無視できなくなります。
今後の国会審議や世論の動向にも注目が集まるでしょう。

