日本人は「自信がない」と言われることが多く、特に欧米と比較されることが少なくありません。では、なぜ日本人は自信を持ちにくいのでしょうか?
文芸評論家・浜崎洋介氏と歴史学者・與那覇潤氏の対談では、「日本人の自信のなさ」の原因について深く掘り下げられています。ここでは、動画の内容をもとに、承認欲求・自己責任論・同調圧力・近代化の影響といったポイントを解説し、日本人が自信を持つためのヒントを探ります。
日本人が「自信がない」と言われる理由
1. 馴れ合い文化と同調圧力
浜崎氏は、「日本人は馴れ合いを好む」と指摘しています。
これは、劣等感や後ろめたさがある人ほど、馴れ合うことで安心を得ようとするからだと言います。自信がある人は、自分の意見や考えを貫くことができるため、他人と適度な距離を保ちながら関係を築くことができます。しかし、日本社会では他人と違うことを避ける同調圧力が強く、「みんなと一緒にいること=安心」となる傾向があります。
特にSNSでは、個人の意見を強く主張するよりも、「周囲に嫌われないためにリツイートする」などの行動が目立ちます。このような環境が、自信のなさを助長しているのです。
2. 承認欲求と自己責任論の問題
與那覇氏は、日本社会に根付く「承認欲求」と「自己責任論」が、日本人の不安を生み出していると指摘しています。
- 承認欲求:「他人に認められないと生きている意味がない」と感じる心理
- 自己責任論:「成功するかどうかはすべて自分次第」という考え方
特に平成以降、日本社会では「自己責任」の考え方が強まりました。個人の努力が評価されるのは良いことですが、その反面、「失敗したらすべて自己責任」とされる風潮が広がり、失敗を恐れる人が増えました。
これにより、「自信がない人ほど、他人からの評価に依存する」という悪循環が生まれています。
近代化がもたらした日本人の「自信のなさ」
1. 表面的な個人主義と本音の集団主義のギャップ
浜崎氏は、「日本人は近代化によって個人主義を受け入れたが、無意識では今も集団主義を求めている」と分析しています。
例えば、コロナ禍において、日本人は世界的に見てもマスク着用率が非常に高いです。これは、「周囲と同じ行動をすることで安心する」という心理が強く働いているからです。このような矛盾があると、自分の考えに自信を持つことが難しくなります。
2. 欧米コンプレックスと劣等感
與那覇氏は、日本人の「欧米コンプレックス」についても触れています。
日本は近代化を進める過程で、「欧米に追いつかなければならない」という意識を強く持ちました。その結果、欧米の価値観を絶対視し、日本独自の価値観を軽視する風潮が生まれました。
- 「欧米のやり方が正しい」という思い込み
- 日本の文化や伝統を見下す心理
このような意識が、さらに「自信のなさ」につながっているのです。
日本人が自信を持つためのヒント
では、日本人が自信を持つためにはどうすればよいのでしょうか?
1. 「有能でなくても価値がある」と考える
與那覇氏は、日本社会では「人間は有能だから存在を許される」という新自由主義的な考え方が強いと指摘しています。
しかし、本来は「人間は存在するだけで価値がある」という考え方が必要です。
たとえ仕事や勉強で成果を出せなくても、人間としての価値が損なわれるわけではありません。
2. 過度な自己責任論を手放す
日本社会では「成功=個人の努力」「失敗=自己責任」という風潮がありますが、これは事実ではありません。
- 環境や運の影響も大きい
- 失敗から学ぶことで成長できる
- 他人と協力することも大切
こうした考えを持つことで、「失敗を過度に恐れる」状態から抜け出せるでしょう。
3. 日本独自の価値観を大切にする
欧米の価値観に過度に依存するのではなく、日本の文化や考え方にも目を向けることが重要です。
- 和を重んじる文化:協調性を大切にする
- 職人精神:細かい部分までこだわる美意識
- 自然との共生:四季や風景を大切にする
このような価値観を認識し、「日本人らしさ」に誇りを持つことも、自信につながります。
西部邁の「どっちでもいい」に至ったエピソード
評論家の西部邁氏は、1960年の安保闘争で活動した後、「どっちでもいい」という境地に達したと語っています。
安保闘争後の燃え尽き症候群
西部氏は、安保闘争で全力を尽くし、逮捕・裁判なども経験しました。しかし、その闘争が終わった後、すべてをやり尽くしたような虚無感に襲われました。
ある日、浜辺でぼんやりと海を眺めながら、「世界が極大で自分が極小である」と感じる瞬間があったそうです。自分という存在があまりにも小さく、無意味に思えたのです。
しかし、次の瞬間、「世界は自分の目の中にあるのだから、自分が極大で世界が極小なのかもしれない」とも感じました。
このジェットコースターのような感覚の中で、ふと隣を見ると奥さんがいて、妻がいるのだったら世界が極大だろうが自分が極小だろうが、西部氏は「どっちでもいい」という境地に至ります。
- 世界が大きくても、小さくても、どちらでも構わない
- 自分が偉大でも、ちっぽけでも、それは問題ではない
この考えに至ったことで、西部氏は初めて「自信を持つことができた」と語っています。
「どっちでもいい」というある種の悟りのような感覚を思えたとき、人は肩の力を抜いて生きることができるのかもしれません。
カール・レーヴィットの「日本人は二階建ての家に住んでいるようなもの」
ドイツの哲学者カール・レーヴィットは、日本の知識人を観察し、次のように評しました。
日本人の「二階建ての家」構造
レーヴィットは、日本人の精神構造を「二階建ての家」に例えました。
- 一階:伝統的な日本的価値観(集団主義、協調性、道徳的規範)
- 二階:西洋哲学や近代思想(個人主義、民主主義、自由)
日本人は、西洋哲学を学びながらも、実際の生活では伝統的な価値観に従っていることが多いと指摘しました。
さらに、日本の知識人は「二階に住んでいるつもり」だが、実際には「はしごがない」ため、日常生活では西洋哲学をうまく適用できていないと述べました。
この「二階建ての家」構造こそが、日本人が**「言っていること」と「やっていること」のズレ**を生み、自信を持てない原因の一つになっているのかもしれません。
日本人が自信を持つためのヒント
1. 「有能でなくても価値がある」と考える
人間は存在するだけで価値があると認識することが重要です。
2. 過度な自己責任論を手放す
「成功=努力」「失敗=自己責任」と考えすぎると、必要以上に不安になります。
3. 日本独自の価値観を大切にする
欧米の価値観だけに頼るのではなく、日本の文化や考え方にも目を向けることが重要です。
まとめ
日本人の「自信のなさ」の背景には、以下の要因があることが分かりました。
- 馴れ合い文化と同調圧力が個人の自信を奪う
- 承認欲求と自己責任論が不安を助長する
- 欧米コンプレックスと「二階建ての家」問題がズレを生み出す
しかし、西部邁氏の「どっちでもいい」という境地や、カール・レーヴィットの「二階建ての家」の指摘からも分かるように、自信を持つためには「言葉よりも生き方を大切にする」ことが重要です。
「他人の評価」ではなく、「自分がどう生きたいか」を大切にすることで、より充実した人生を送ることができるのではないでしょうか?