近年、MMT(現代貨幣理論)という経済理論が注目を集めています。しかし、日本政府はMMTを強く否定し、財政健全化を重視した増税政策を進めています。なぜ政府はMMTを受け入れないのでしょうか?この記事では、その理由と背景について解説します。
MMT(現代貨幣理論)とは?
MMT(Modern Monetary Theory)は、政府は通貨を発行できるため、財政赤字を気にせず積極的に支出できるとする理論です。MMTの主なポイントは以下のとおりです。
- 政府は自国通貨を発行できるため、財政赤字は問題ではない
- インフレが問題にならない限り、政府支出を拡大すべき
- 税金は財源ではなく、インフレ抑制のための手段
- 政府の役割は経済の安定化と完全雇用の実現
MMTを採用すれば、大胆な公共投資や社会保障の拡充が可能になります。しかし、日本政府はMMTを全面的に否定し、財政規律を守るべきだと主張しています。
政府がMMTを否定する理由とは?
では、なぜ日本政府はMMTを受け入れないのでしょうか?その理由を詳しく見ていきましょう。
1. 財務省の「財政健全化」路線が根付いている
日本の財務省は、長年にわたり「財政健全化」を最重要課題としてきました。その背景には、以下のような考え方があります。
- 財政の黒字化が当たり前である
- 国の借金(国債)は将来世代の負担になる
- 財政赤字を放置すると、日本が財政破綻する
財務官僚は、入省時から「財政規律を守ることが最優先」と教え込まれ、赤字国債の発行を極端に嫌います。そのため、MMTの「財政赤字を気にしなくてよい」という主張は、財務省の基本方針と真っ向から対立します。
2. 「国の借金」=家計の借金という誤解が広まっている
多くの人が「国の借金」を家計や企業の借金と同じように考えています。しかし、これは大きな誤解です。
- 家計や企業は、借金を返済しないと破綻する
- 政府は、自国通貨で借金(国債発行)できるため、返済義務が異なる
- 日本の国債は、ほとんどが日本国内で消化されているため、外貨建ての債務とは異なる
MMTは、この「国の借金=家計の借金」という誤解を批判し、政府の財政赤字は問題ないと主張しています。しかし、この考え方は財務省の立場と矛盾するため、政府はMMTを認めようとしません。
3. インフレを過度に恐れている
MMTの考え方では、政府はインフレ率が許容範囲内なら、財政支出を増やしても問題ないとされています。しかし、日本政府は「インフレの制御ができなくなる」としてMMTを危険視しています。
- 「ハイパーインフレになる」との批判
- 「財政規律が崩れると市場の信用を失う」という懸念
- 実際に制御できるのか不透明
ただし、日本は過去30年間ほぼデフレ状態が続いており、過度なインフレの心配は不要だという意見もあります。
4. 増税を正当化するため
政府がMMTを認めると、「増税の必要はない」という議論が広がります。しかし、政府は増税を進めることで、財政健全化を達成しようとしています。
- 消費税の増税は財務省の悲願
- 増税を正当化するために「財政破綻論」を強調
- MMTを認めると、国民の増税への反発が強まる
財務省は「増税しないと財政が破綻する」というストーリーを作ることで、MMTのような「財政赤字を気にしなくてよい」という考えを封じ込めています。
5. 既得権益層の反発
MMTの理論に基づいて財政支出を拡大すると、政府の役割が大きくなります。これにより、既存の金融業界や財界が影響を受ける可能性があります。
- 大企業や金融業界は、政府支出の増加を歓迎しない
- 国債を多く保有する金融機関は、財政政策の変更を恐れる
- 政府の役割拡大は、規制緩和を求める経済界の方針と対立する
そのため、政府は財界や金融界との関係を維持するためにも、MMTを認めようとしないのです。
MMTは本当に危険なのか?
MMTを完全に受け入れるべきかどうかは、慎重な議論が必要です。しかし、日本の現状を考えると、MMTの考え方を部分的に取り入れることは有効です。
- デフレが続く日本では、財政出動を拡大すべき
- 公共投資や社会保障の充実により、経済成長を促す
- 「財政破綻論」は誤りであり、適切な財政運営が重要
MMTを全面的に採用するかどうかは別として、「財政赤字=悪」という固定観念を見直し、より柔軟な財政政策を考えるべきではないでしょうか。
まとめ
政府がMMTを否定する理由は、単なる経済理論の違いだけではなく、財務省の方針、増税政策の維持、既得権益層の影響など、多くの要因が絡んでいます。しかし、日本が長年デフレに苦しんでいることを考えると、財政規律を絶対視する現状の政策が正しいのか、改めて議論する必要があるでしょう。

