イマヌエル・カントは、その哲学の中で「感性」と「悟性」という重要な概念を提唱しました。この2つの概念を通じて、彼は人間の認識がどのように成立するのかを解明し、哲学における新たな地平を開いたのです。今回はカントの認識論の基本について、特に「感性」と「悟性」の役割を中心に詳しく解説します。
感性とは何か?
感性の役割
感性とは、外部からの刺激を受け取る最初のプロセスを指します。具体的には、物自体が感覚器官(視覚、聴覚など)を刺激し、私たちの心に感覚が現れる仕組みです。
空間と時間の枠組み
感性には「空間」と「時間」の2つの枠組みが備わっています。これらはあらかじめ人間の認識に組み込まれているもので、経験を超えた先天的なものです。この枠組みによって、私たちは物事の位置や順序を認識できるようになります。
- 空間: 物の広がりや位置を把握する枠組み。
- 時間: 物事の前後関係や継続性を捉える枠組み。
直観としての認識
感性によって得られる認識は「直観」と呼ばれます。ただし、この段階では漠然としており、まだ具体的な意味を持っていません。
悟性とは何か?
悟性の役割
悟性は、感性が受け取った直観を整理し、「概念」を使って判断する能力です。感性が提供する漠然としたデータに対して、「これはテーブルだ」などと具体的な意味を与えるのが悟性の働きです。
概念の必要性
悟性の認識には概念が不可欠です。概念は、直観的な感覚データをまとめ、統一的な判断を可能にします。たとえば、「テーブル」という概念を使うことで、「茶色くて広がったもの」を具体的に特定できるようになるのです。
認識のプロセスとコペルニクス的転回
認識の仕組み
カントは、認識の仕組みを大きく転換しました。従来の哲学では、客観的な世界がまず存在し、それを主観が受け取ると考えられていましたが、カントはこれを逆転させます。
主観に備わった「感性」と「悟性」の枠組みが、現象としての客観世界を作り出すと主張したのです。
コペルニクス的転回
この発想の転換は「コペルニクス的転回」と呼ばれます。コペルニクスが天動説を地動説に転換したように、カントは認識の仕組みを主観中心に再構築しました。
カント認識論のエッセンス
- 認識が対象に従うのではなく、対象が認識に従う。
- 主観同士を一致させることで、客観的な認識が成り立つ。
- 感性と悟性の形式は先天的(アプリオリ)に備わっている。
まとめ
カントの認識論は、主観が外界をただ受け取るのではなく、内側から外界を構成するという画期的な考え方を示しました。「感性」と「悟性」という二重構造を持つ認識プロセスは、人間の知覚と判断を深く理解するための重要な鍵です。これにより、哲学だけでなく、科学や心理学などの分野にも影響を与えました。次回は、「悟性の判断」についてさらに深掘りしていきます。

